works (art)

彼女の町、彼の海岸

2018.1.13-1.27 映像インスタレーション
[アーティスト・プラクティス2017 グループ展示]

主催 NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[A|T/エイト]、文化庁
製作 NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[A|T/エイト]
協力 ARTISTS' GUILD、 アートト/ art to
会場 駒込倉庫 

「彼女の町、彼の海岸」
出演:秋元菜々美 鈴木卓巳

あの日、雪が降った。
私は桜並木の下にいて、彼は、海辺の丘の上にいた。

黒い塊が、堤防を超えて、町を飲み込んでいくのを、彼は見ていた。
「がんばれ!」と先生たちが、丘の下に、ロープを投げていた。でも、全員を引き上げることは、出来なかった。
その時、白いものが、空から降ってくることに、気が付いた。
雪だった。
さっきまで晴れていた空はいつの間にか曇っていた。
すべてが、現実離れしていて、まるで映画の、1シーンのようだった。

それはまだ、わたしと彼が出会う前の話だ。
私たちはまだ、13歳だった。
雪が降った冬の日、あの日の雪の話を、彼としたことを、思い出した。
私はふと、彼が昔住んでいた、海辺の町に、行ってみようと思い立った。

* * * 

あの日、雪が降った。
僕は丘の上にいて、彼女は、桜並木の下にいた。

彼女はコンビニの駐車場に友達といた。店のガラスが飛び散り、
地面に亀裂が入り、晴れていた空が急に暗くなったかと思うと、
雪がチラチラと舞い始めた。
町内放送がに5m、10m、と高さを増す津波予想を伝えていた。
友達が泣き始めた。
彼女は桜を見上げた。
いつもと変わらない桜たちを見ていると、気持ちが落ち着いた。
その翌朝、彼女はこの町から離れることになる。

それはまだ、僕と彼女が出会う前の話だ。
僕らはまだ、13歳だった。
2017年冬の雪が降った日、僕は一人、彼女が住んでいた町を訪れた。
東京で働くことが決まり、上京する前に、かつて彼女から話で聞いていた場所に、行ってみたいと思ったからだ。

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トラックやショベルカーの工事の音が響く暗い部屋の中には、女の子と男の子が立つ映像が向かい合って流れている。そこに置いてあるヘッドホンを手に取り耳に当てると、外の音は遮断され、声が聞こえ始める。

富岡町といわき市で震災を経験した同級生の二人が、それぞれに相手の故郷を訪ね、互いの記憶が交錯していく。向き合う映像は聴く人の背中から気配を滲ませ、映像と映像は時々、まばたき、をする。見ているのは誰なのか。どちらからなのか。

体感しながら耳を傾ける、映像インスタレーション作品。


photo: ujin Matsuo

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