
神籬 〜蛇なる大地、断層を祀る〜
コーディネーター:蛭田秀美
映像撮影/編集:田村博之、 藤城光
スチール:鈴木 穣蔵
音楽:丹野光樹
制作・リサーチ協力:会田勝康、芦間好弘、江尻浩二郎、遠藤捺美、大澤良一、大竹保男、大津美喜夫、菅野洋志、鴨健史、斎藤英夫、斎藤富士代、斎藤琴女、斎藤瑞樹、下山田誠、 波立清、野島美穂、芳賀清、平子時寛、舘野 眞歩、丹野光樹、緑川平寿、森亮太、山根麻衣子、湯淺 瑞樹、渡邊可奈子
箸を土にさすと、根が生えて、
幹伸び、木になるそうだ
蛇神様の寝床に箸さした
箸よ木になって
伝えてほしい
田人の蛇の物語
ある3月のこと
揺さぶられ、黒い煙に巻かれ
一万二千年ぶりに
目ぇ覚めた蛇神様
しばらくじっとがまんしてたけんど
桜の花の咲く頃に、
天に稲妻走らせて、
体ぶるんと震わせて
大地打って飛び上がり、おおあくび
目ぇ覚めた蛇神様
うるわしい青年の姿になった
御斎所山に登ってぐるり見渡し
めんこい娘さ惚れっちまった
「おらの嫁さまに、どうだっぺ」
娘さんが言うには
「山、谷、大地 に福めぐみ
田人をずっと守ってくれるなら」
蛇神さまと娘さん
赤い糸で結ばれて
箸を渡すはてんの川
葉っぱさ黄色く色づいた
田人さ黄色く色づいた
眠りについた蛇神様
しっぽの先は東の海へ
寝ぼけてしっぽを振るそうだ
2011年4月11日、浜通りの空に黒い雲が立ち上り雷が鳴った直後に、田人を震源としたM7の大地震がが起きた。それは、東日本大震災のちょうど1ヶ月後のこと。3.11により引っ張られた地殻の断層面に水が流れ込み、大地がすべり動いた。12000年ぶりのこと。M7.0の地震が起き、地下水脈が変わり、田人には約14kmの断層が現れ、断層はまるで大地を這う蛇のように、道路、田んぼ、学校、家、山などを横切り、凄まじい衝撃は、御斎所山の奥宮の直下を割り砕き、山崩れを引き起こし、16歳の少女を含む計4名が犠牲となった。それは、地質学的には非常に珍しい「正断層」の出現であった。
私は半年ほど田人に通い、既に消えかけている断層を探しながら、断層に纏わる話の収集やリサーチを行い、記憶の伝承としての作品制作を試みた。
断層を蛇神になぞらえ、命を落とした16歳の少女の話を伝える「蛇神の物語」を創作した。
8月のある晴れた日に、田人の人々と有志とで、その蛇神の物語を大地に落とし込むように、巨大な箸と鈴の付いた赤い紐を神籬に見立てて、14㎞の断層跡に渡した。そして完成した作品『神籬』は、人間世界を遥かに超えたスケールを示していた。
訪れる人々はその夏、この神籬を辿って山深い旅路を巡りながら、箸を伝う赤い紐についた鈴を鳴らし、その物語に節をつけ、同じ年頃の少女が大地へと歌を奉納した。
古代、地神の多くは蛇の姿で、雷を起こして自由に水を操るものだったという。「蛇」という言葉は、地名や伝説の中でも多く登場し、そこには過去の災害の痕跡が記憶されている場合も多い。
古来、自然や精霊を祀る方法だったという神籬(ひもろぎ)。「箸を土にさしておいたら大木になった」という日本各地にある伝説のように、田人の特産の杉で作った箸が木となって記憶を繋いでいくことを願い、木となる箸を神籬の常緑樹に見立て、土にさした。
祀るのは、蛇なる大地であり、断層である。赤い紐と鈴を渡し、鈴を鳴らし巡り、あちら側へ行ってしまった人々を想い、蛇神と人の婚姻譚と歌を大地に奉納する。一つの鎮魂の形は、大地の平穏を祈り、日々の幸せを祈る。