works (art)

地中の羽化、百億の波の果て

体験型ツアー演劇
「地中の羽化、百億の波の果て」
2020.2.1 上演クレジット
(しらみずアーツキャンプ2019)

作/演出
phyton 寺澤 亜彩加 × 藤城 光

出演:田口 紗亜未、荒木 知佳、松本 昌弘、奥 萌、牛島 青、秋元 菜々美、鈴木 卓巳、鶴飼 美桜、鈴木 正也、森 亮太、西﨑 芽衣、山根 麻衣子、会田 勝康、辺見 珠美、キヨスヨネスク、寺澤 亜彩加、藤城 光

特別出演:鎌田 啓子、高木 ヨリ子、渡辺 道子、與澤 禮子、渡邉 為雄

スペシャルサンクス:渡邉 為雄、内郷白水町の皆様

スタッフ:会田 勝康、西﨑 芽衣、辺見 珠美、森 亮太、山根 麻衣子

バス運転手:坂本 雅彦

記録映像 撮影:長崎 由幹佐藤 貴宏
撮影補助:菊池 聡太郎
編集:長崎 由幹

上演写真記録:鈴木 穣蔵、小松 理虔

衣装:mamagoto

書:荒木 知佳

特別協力:江尻 浩二郎、加藤 陽康、萩原 宏紀

潮目やっちきリサーチチーム:江尻 浩二郎、寺澤 亜彩加、藤城 光

主催:いわき潮目文化共創都市づくり推進実行委員会、いわき市

協力:みろく沢炭砿資料館/菩提院/古滝屋/内郷まちづくり市民会議/常磐炭田史研究会/いわきヘリテージ・ツーリズム協議会/願成寺高野山不動尊遍照光院/白水じゃんがら念仏保存会/上三坂やっちき踊り保存会/エンゲキ☆アリペ編集部 /フレフレふくしま応援団 / キックオフ/フレフレふくしま応援団 / キックオフ「しらみずアーツキャンプ・しらみず野外演劇祭を実現させたい!」クラウドファンディングにご協力いただいた皆さま

いつか地層になる私たちの一瞬を抱きたいという思いが過ぎった時から、私たちは、穴だらけのその大地を、ひたすら歩きはじめた。

常磐炭田の発祥の地「弥勒沢」を擁するかつての炭鉱町「白水町」を舞台とした、上演時間10時間に及ぶ、体験型ツアー演劇作品。

制作の軸となったのは、いわきに伝承芸能として残る「やっちき」という庶民の娯楽として楽しまれてきた歌と踊り。躍動的な動きと猥雑で面白みのある歌詞が特徴的でもある。その「やっちき」が、この白水町で供養として踊られたという証言があると聞き、興味を持った。

それは、草野日出雄氏の著作『閼伽井嶽薬師と「やっちき」考』で紹介されている、明治36年生まれの岡崎マサさんの証言である。

「坑夫たちの帰りは夜半にかかることも多く、大正八年頃から暗がりの道をたどって白水阿弥陀堂に差しかかると、十数人の坑夫たちは、阿弥陀堂の境内でひと休みし、カンテラの灯を中央にして『やっちき』を踊ることたびたびだった。マサさんも勿論踊りの輪に加わり、鉦や太鼓がなくとも歌と掛声(囃子)で踊れたので、いっしょになって踊った。あるときなど、マサさんは踊り終って帰る際、後山の用具であるタンガラを阿弥陀堂境内に置き忘れ、夜道を戻って背負い帰ったこともあった。踊ったのは境内ばかりではなく、坑口近くの広っぱで、月の明かりを頼りに踊ったこともあった。先山(坑内の採炭夫)たちは『炭坑で事故死した人々の供養に踊るのだ。』といっていた。」(草野日出雄『閼伽井嶽薬師と「やっちき」考』より抜粋)

私たちは、惹き寄せられるように「供養のやっちき」を追って、白水町をひたすらに歩いた。すると、この地にかつてあった営みが、少しずつ、少しずつ、姿を顕しはじめたのである。

落盤事故や坑内火災などが頻繁に起きる日常、エネルギーと引き換えとなった命。黒いダイヤモンドと呼ばれた石炭を掘る仕事を求めて集まった荒くれ者たち。

「炭鉱町」という、いわば歴史に翻弄され、社会の不条理を受け入れてきたとも言える町の暗がりで踊られる「やっちき」。そこに潜む供養というもの。そこには、血の通った人間の中にある、言葉にならない感情が潜んでいる。そしてこの炭鉱町の盛衰の姿は、首都圏のエネルギー供給地として発展を続け、火力や原発を誘致し、その後起きた震災と原発事故など、翻弄され続けてきたこの福島県浜通りの姿でもあった。

地震や津波、原発事故の体験を通過した私たちは、体の奥に痼りのようなものを抱えながら生きている。過去の炭鉱町を掘り下げていくことは、現在を生きる私たち自身のことを知ることでもあった。生きるということの、なんと哀しく、愚かしく、美しいことか。

炭鉱の閉山から半世紀近くが経とうとしている今、当時のやっちきを踊った記憶を持っていらっしゃる方の年齢は90歳前後の方々。貴重な記憶を語り継げるかどうかの瀬戸際に立っているということも実感した。命がけの仕事の話、坑内事故の話、石炭とともにある暮らしなど、生の記憶に触れることが出来たのは、本当に貴重だった。

そこで受け取ったものを体に溜め込み続け、様々な葛藤の中で私たちは動き、そして、多くの方にご支援を頂いてようやく上演の実現ヘと舵を切った2019年秋、台風19号が襲来。上演は延期となり、私たちは、演者スタッフとともに泥かきに向かい、泥にまみれ、土の重さを体に受けながら次の機会を待った。

そして、2020年2月1日。雲ひとつない快晴の空の下、早朝から夜の帳が下りるまでの約10時間、私たちは上演を続けた。

紡いだのは「穴」の物語。海から山へ物語を巡りながら、演者も観客も大地も渾然となって、こちらでもあちらでもない、過去と未来の界もない、一つの混ざり合いが、どこでもない場所をうねり動いていく。

「恵みも災いも降り注ぐこの世界で。失われた数多のものたち。

災いは表情を変えながら重層的に広がり、混沌としながら終わることが無い。誰しもが何かを負い、体の内には、いつしか濁りのある疼きが巣食っている。

弔い、というものを必要としていたのは、私たちかもしれない。

この町を歩きながら、いつしか自分たちを辿り始めている。

地中に眠るいくつもの魂に触れながら、こちらの魂が震えている。

植物が石炭となり私たちの命を繋いだように、命は命のなかへと編み込まれてゆく。

打つ、打つ。

鼓動よ、波打て。鼓動よ。

どくん、どくん、どくん、どくん。

そうだ。私たちは、私たちの「やっちき」を踊るのだ。

消えた息が産声となるように」(戯曲より抜粋)

風が抜け、光が差し、水は満ち、空は澄み、岩が鳴り、山が揺らいでいる。声無きものたちがうたい、大地がうたっているようでもあった。

 

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