works (design)

中之作プロジェクトパンフレット

中之作・折戸エリア紹介パンフレット
発行:2020.12
企画制作:NPO法人中之作プロジェクト 
デザイン:藤城 光
イラスト:フジキカオリ
印刷:植田印刷

中之作・折戸をブラブラと歩くところから、パンフレット作りははじまった。この日の道案内人は、パンフ制作の話を持ちかけて下さった前田さんとインターンで中之作・折戸を巡っていた草野くん。

中之作・折戸は「鶴の間」と呼ばれる港を持つ、小さな港町である。いつ見ても見飽きない海の表情があり、振り返れば緑が美しい山が鳥の羽のように町を包んでいる。江戸時代より栄えた港に停泊する色とりどりの漁船、漁村では家の壁を船用の塗装で塗るので、歩いているとまるで洋館のようなパステル色をした家屋が、今も僅かに点在し、港町ならではの景観を見つけることができる。

まずは私が気になっていた「へそ石」を目指し、海側の道を歩く。途中、港の端に海から陸に続くレールが見えてくる。船の修理場である。そこで作業をしている男性と少し話をし、整備のため陸にあがっている船を間近で見せてもらった。海の上に浮かぶ船とはまるで別物のようだ。巨大なスクリューだけでも人の大きさをゆうに超え、海の中を進む力の大きさに圧倒される。いつもは海の中にある赤く艶々とした船の腹にそっと触れ、一瞬、魚たちが周りに泳いでいるような気分になり、ブルっと頭を振る。焼き魚が当たり前のように並ぶ食卓も、繋がっている。

船をあとにし、かつて中之作に多くの富をもたらしたという、鰹加工。街のあちこちに、鰹のわら焼のための煙突の名残を見ることもできる。今は、高知の企業が大きな加工場をここに設けている。本場高知の?と思ったが、ある方によると、良質の鰹を求め歩いていたところ、この常磐の鰹の美味しさに感動して、ここに工場を設けたのだという。工場の横を通り、へそ石の方へと抜ける。

中之作に隣接する永崎海岸で、十数年も姿が見えなかった奇石「へそ石」が、本来の位置から約20メートル南に離れた場所で見つかったのは2014年。人のへそに似ている卵形の石である。元は浜辺にあり「へそ石が動くと災難が起きる」との言い伝えがあり、この石が見えなくなると嵐が起こるといわれている。かつて房州の船がこれを持ち帰り(流れ着いたという説も)、藁打ち台に使ったら疫病が流行ったといわれ、占ってみると、自分は永崎のへそ石だ、返さないとますます病気を流行らせるといわれたのでその通りにしたこともあるという言い伝えもある。1964年には岩穴にセメントで固定されたそうだが、砂に埋もれたのか見えなくなっていたという。

今回、砂浜に埋もれているのが発見され、どこにおくべきかが話し合われ、結果、もともとあった砂浜近くの岬の上の「龍神様」の隣に台座を設けて固定することにしたのだそうだ。岩をよじ登ってお参りをし、ようやく「へそ石」とご対面。予想以上に巨大なデベソだった!幅約50センチ、高さ約60センチ、奥行き約70センチあるそうだ。また動く時がくるのだろうか。

愛嬌のある奇石を見て満足し、山側に向かい迂回ルートに入る。

老舗のお菓子屋を見つけ、バターまんじゅう、とう凄まじいメニューに心奪われ、皆1個ずつ購入し、そのカロリーの塊のような饅頭(しかし間違いなく美味しい)を頬張りながら、山の方へと歩いた。

ここからは戊辰戦争の足取りが染み込んでくる。中之作では伊達藩から応援に来て戦死した武士たちを憐れんで隠し墓を作ったという話が残っていて、その土饅頭にも連れていってもらい、手を合わせ、残っている石碑も巡った。

さらに山の上へ、けもの道のような道をガサガサと登っていくと、神社が現れる。岬の突端のような場所に、神社はあった。見下ろすと湾状にまるい窪みにたくさんの船が停泊しているのが小さく見える。

かつて、今は穏やかなこの風景を大津波が襲った。2011年に起きた東日本大震災である。その津波被害で解体が決まった築200年の古民家を、買い取って「清航館」という地域おこしの拠点として蘇らせたのが、この中之作プロジェクトの豊田夫妻だった。次々と失われていく古き良き海辺の町並みを残したいという想いで、移住してしまうのだから、只者ではない。様々な活動を繰り広げてきた10年間。その苦労は計り知れないと想像する。

そして今回、その活動の一環として、移住促進や交流人口拡大を目的として、このパンフレットは企画されたのだった。

ぶらぶらと歩きながら、海とともにあるこのまちに、刻まれゆく時を思う。

歴史からまちあるき、四季折々の風物詩、周辺のランチなど便利情報、移住情報、中の作プロジェクトの活動など、盛りだくさんの情報を盛り込み、姉のフジキがまちあるき用のイラストを担当し、様々な思いがギュギュッと入ったパンフが出来上がった。

印刷を担当してくださったのは、信頼する印刷屋さんである植田印刷の渡辺さん。紙選びから相談に乗っていただき、イメージを伝えると様々な可能性を見せてくださり、ものづくりの醍醐味を実感する時間。近くにこのように制作を共に出来る方がいらっしゃることの幸せ。「糸綴じ」をお願いすることが決定し、最終的な紙選びは中之作プロジェクトの豊田さんや久保田くんにも同席していただき、中之作プロジェクトが持つ”DIY"の精神を伝えられるものを選んだ。

柔らかい紙の手触りに染み込んだ深みのある印刷と、発色のよい明るいレモンイエローの色をした「糸綴じ」必見です!昭和の産業用ミシンを使い渡辺さんの執念で美しい製本を作り出してくれたことにも感謝。(この糸綴じ、相当の強度があるのだそうです)

日焼けし、ボロボロになればなるほど、かっこいい筈。

是非みなさん、見かけたら手に取っていただけたら嬉しいです。そしてぜひ、パンフ片手に中の作・折戸に遊びに行ってみてくださいね♪

photo:豊田千晴

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